軽労化®活動の実践事例
大成建設 × 北海道大学 × スマートサポート × 軽労化トレーナーが語る5年間の歩み
建設現場にはこれまでも無数の改善が積み重ねられてきた。
安全装備、作業手順、技能講習——。
しかし、その中心にいる「人の身体」については、どこか“個人任せ”のままだった。
腰痛、転倒、集中力の低下。
これらの課題には、体力や身体機能だけでなく、作業方法や職場環境など、複数の要因が関わっている。それでも、それらを一体で捉え、継続的な改善につなげる仕組みは十分ではなかった。
その「見えにくい課題」を追い続けた4人の関係者が、5年間の歩みを語った。本記事では、この一連の取り組みを、現場の声を起点に、測定、対策、見直しを重ねる「軽労化®活動」として紹介する。
田中 吉史 さま
大成建設株式会社 本社 生産技術イノベーション部
生産技術ソリューション推進室長
本田 健 さま
大成建設株式会社 札幌支店 作業所 次長
鈴木 善人
株式会社スマートサポート 代表取締役
山本 祐希
株式会社スマートサポート 取締役
軽労化マスタートレーナー

左から 田中 吉史 さま、 本田 健 さま、 鈴木善人
(田中)
私たちが軽労化®活動に取り組んだきっかけは、あくまで『現場のリアルな負担を減らしたい』という思いでした。
最初はアシストスーツをどうにか普及させたい、という考えが出発点でした。
しかし、実際に現場で導入を試みると、装着のストレス、可動域の制限、暑さ、習慣化の難しさなど、普及の壁が次々に見えてきた。
そこで気づいたのです。
これは“スーツを配るプロジェクト”ではなく、“働き続けられる仕事と環境をつくるプロジェクト”だ、と。

田中 吉史 さま
(鈴木 )
スマートスーツは腰を支える技術としては優れています。
でも“装着しただけで解決”とはならない。
いまは“誰に・いつ・どんな状態で使われるべきか”を含めて考える段階に来ています。
つまりスーツそのものではなく、仕事や環境の改善、過剰な身体負担の軽減、体力づくりの支援を一体で考える流れの中に、“ひとつの選択肢”として位置づく技術になっていく必要があると思っています。
(田中)
そこでひとつ問題に気づきました。――現場の人たちが、どれだけ体力を持っているのか、誰も分かっていない。
握力は?
体幹は?
バランス能力は?
疲労の蓄積は?
実態を知らずに腰痛対策をしても、それが現場に合っているのか、見直すべき点はどこかを判断しにくい。そこで、測定を改善の入口にする必要があると気づきました。
(鈴木)
職人さんって、自分の体力を自分の感覚で判断しているんですよね。
“昔はもっとできた”“まだイケる”と。でも実際は違うことが多い。
だから必要なのは、数字という“鏡”。
それを本人が見て、説明を受けることで初めて『あ、自分は今こうなんだ』と気づくきっかけになります。

鈴木 善人
(本田)
体力測定は、ただのイベントじゃありません。これは、現場文化を動かす装置だったのです。
最初に東京赤坂の現場で導入したときは、500人規模の現場なのに初日は誰も来なかった。
でも2日目、1人測ったら2人目が来て、3日目には行列になった。そこから一週間で500名を測定、最終的には1,000名以上のデータが集まりました。
最も印象的だったのが、“悔しがる人が出たこと”です。
『俺はもっと握力あると思っていた!』『若いのにバランス悪いのか!』
そこから“鍛えてくる”人が出てきた。正直、この光景は想像していませんでした。
(山本)
測定は“自分の状態に向き合うスイッチ”なんですよね。
職人さんは“仕事ができる=身体が強い”という前提で生きてきている。でも測ってみると違う。
それが悔しさになり、自発的な運動になり、習慣になる。
本人の気づきが自発的な取り組みにつながり、その変化を現場で支え続ける。ここに、軽労化®活動の大切な意味があります。
(本田)
建設業は身体を酷使する仕事だから、“壊れて当たり前”という空気があったのですよ。
でも測定が入ることで、それが変わったんです。
たとえば、ある50代の職人さんがいました。『もう年だし』と言っていた人が、測定して、体幹年齢が“60歳”と判定されて悔しがった。
それをきっかけに自分でトレーニングを始め、半年後には体重が15キロ減り、バランス能力の測定結果も向上した。
人は、気づきと支えがあれば変わることがあるんですよね。
身体の状態を測って知り、仕事や環境を見直し、必要に応じて身体を整える。
軽労化®活動は、このサイクルを現場で続けるための取り組みなんです。

本田 健 さま
(鈴木)
これからは、実年齢だけで一律に判断するのではなく、身体の状態と作業の要求を照らし合わせながら、働き続ける方法を考えることが大切になります。
同じ年齢でも、体力や身体機能には個人差があります。
測定結果は就業の可否を決めるためではなく、本人の気づきや、作業・環境の改善、必要な支援を考えるために活かすものです。
(田中)
体力測定の結果を参考情報として活かせば、“働ける身体をつくる”ことに加えて、仕事の進め方や環境を変える選択肢も増えます。
制限するためではなく、安全に働き続ける道を一緒に考えられる。それが、これからの労務管理に必要な視点だと思います。
(本田)
私たちが関わった大規模現場では、事故の約3割を転倒が占めていました。
転倒には筋力やバランスなどの身体機能に加え、床面、段差、動線、作業方法など、さまざまな要因が関わります。
だからこそ、データと現場の状況を合わせて見れば、対策の優先順位を考えやすくなるんです。

(田中)
軽労化®活動は、“腰を守る道具”というフェーズから、“働き方を支える文化”へ進化しています。
軽労化2.0は、特定のツールや講座だけではなく、改善を続けるための“環境設計”です。
将来は、コンディショニングルームが現場の近くにある。
AIが本人の同意のもとで体力データを読み取り、一人ひとりに合わせたフィードバックを返す。
血圧を測るような感覚で、体幹の測定やストレッチができる。そんな現場も構想しています。
(鈴木)
『大成さんの現場に行くと健康になる』
そう言われる現場が増えれば、採用や企業ブランドにも良い影響が生まれる可能性があると思うんです。
(本田)
体力測定を通じて分かったのは、職人が“できない”のではなく、自分の身体の状態を知る機会が少なかったということです。
作業前に短時間、身体を動かして肩まわりを整える。立ち方や足のつき方を見直して、腰への負担を減らす。そうした小さな工夫を知るだけでも、働き方は変わります。
『働きながら、身体を守り、整えていく』
それが自然にできる現場をつくっていきたいですね。
(鈴木)
かつては、まずスーツありきの提案だった。でもこれからは違う。
測定してみると、今の作業では身体への負担が大きいことが分かった。
→まず、作業や環境を見直す。
→そのうえで、体力づくりや、必要な期間の身体支援を組み合わせる。
こうした流れの中で、必要な人・作業・場面を見極めて使うのが、これからのスマートスーツです。
(田中)
建設業が『身体が壊れる仕事』というイメージのままではいけない。
“働きながら、自分の身体を守り、整えられる場所”にしていきたい。
(本田)
技術だけでも、人材は来ない。
給与だけでも、定着しない。
“自分の身体を大切にしながら働ける現場”こそ、これからの採用や定着を支える力になると思います。
4人が最後に語ったのは、とてもシンプルなことだった。
「働く人が長く続けられる仕事と環境をつくること。それが、これからの現場の価値になる。」
大成建設の現場で積み重ねてきた軽労化®活動は、
体力測定、作業姿勢や身体負担の把握、対策の検討、実践後の見直し——
さまざまな試行錯誤を重ねてきた。
その過程で見えてきたのは、本人の気づきと現場の改善が結びつくことで、働き方は変わり得るということだった。
大切なのは、変化を一度きりで終わらせず、現場ごとに記録し、次の改善へつなぐ仕組みである。
その循環を支える仕組みとして生まれたのが、「軽労化ナビ」だ。
軽労化ナビは、活動そのものの名前ではない。
現場の声を起点に、測定、対策、見直しを重ねる軽労化®活動を支えるためのツールである。
5年間の歩みを、次の現場改善へつなげるために。

これから先も、現場で働く一人ひとりが自分の身体を知り、仕事や環境をより良くしながら、安心して働き続けられるように。
軽労化®活動は、現場とともに続いていく。